11. 立正安国論を曲解する創価学会

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前回は、創価学会が主張していた「国立戒壇の建立」という考えが、信憑性が極めて低い日蓮遺文に基づいていたことを説明しました。今回は、「公明党の支援活動」や「王仏冥合」といった考え方が日蓮思想から正当化できるかどうかを考察したいと思います。

 

創価学会は、表向きには公明党の支援は会員の自由に任せるとしています。しかし、公明党の支援活動(主に集票活動)に「法戦」という宗教用語を用いたり、「公明党支援の功徳」を強調したりなど、実際は重要な宗教活動の一つとして位置づけています。また、活動をする上でも、公明党の支援をしないという選択は許されない雰囲気があります。

 

創価学会公明党支援の根拠として挙げる最も一般的な日蓮遺文は立正安国論であり、中でも【汝須く一身の安堵を思わば先ず四表の静謐を祷らん者か(御書p31)】の一文が最もよく挙げられます。

 

さて、この一文の中に政治的な活動を推奨する意図が含まれているでしょうか。どう見ても、まったく含まれていませんよね(笑)。これは「自らの安穏を願うならば、まず社会の安穏を願うべきである」ということを言っているに過ぎません。また、立正安国論を隅から隅まで読んでも、政治活動を推奨する表現はどこにも見られません。そもそも、立正安国論は【汝早く信仰の寸心を改めて速に実乗の一善に帰せよ(御書p32)】とあるとおり、正法への帰依を求める書であって、政治的な活動を勧める書ではないのですから当然です。

 

また【汝須く一身の安堵を思わば先ず四表の静謐を祷らん者か】をより適切に解釈するのであれば、これは依正不二環境と自己は一体のものである)という仏法の道理から、「自分だけではなく、他者も含めた社会全体としての安穏を求めてこそ、本当の安穏が得られる」ということを言っていると考えられます。

 

日蓮のこの考えが顕著に表明されているのが、同じ立正安国論

【汝早く信仰の寸心を改めて速に実乗の一善に帰せよ、然れば則ち三界は皆仏国なり仏国其れ衰んや十方は悉く宝土なり宝土何ぞ壊れんや、国に衰微無く土に破壊無んば身は是れ安全・心は是れ禅定ならん(御書p32)】

の部分です。

 

すこし難しいですが、要約すると、「自らが正法に帰依すれば、世界は仏国=浄土となり、世界が仏国となれば、自らも安穏となる」となります。つまり、日蓮は、「自己の変化⇒環境の変化」という内因的な作用と、「環境の変化⇒自己の変化」という外因的な作用の、双方を重視しているということです。

 

一般的に仏教では、心や認識の問題のみが重視されることが多いですが、日蓮の思想は「色心不二身体と心は一体)」と「依正不二環境と自己は一体)」の観点から、心の問題・行動の問題・社会の問題を一体のものとして捉えるという特色があります(※このことは鎌倉仏教研究者の戸頃重元氏の主著「日蓮教学の思想史的研究」でも指摘されています)。

 

恐らく日蓮は、社会の問題はそのまま心の問題の顕れであり、心の問題はそのまま社会の問題の顕れであると認識していたのではないでしょうか。こうした考え方は、現代でいえば「社会心理学」に相当するものであり、鎌倉時代の人物が既にそのような観点を持っていたことは注目に値すると言えるでしょう。

 

話が少し脱線してしまいましたが、要するに立正安国論からは、政治活動への参加が自らの安穏のために必須という結論は導けないということです(ましてや公明党の支援活動など尚更導けません)。あくまで立正安国論は、正法への帰依によって心と社会の問題を総合的に解決していきましょう、ということを主張しているに過ぎないのです。

 

一方、日蓮に「王仏冥合政治と仏法の一体化)」の考え方があったかどうかという問題ですが、私はおそらく「近いものはあった」と考えています。というのも、立正安国論では「他国侵逼難侵略)」と「自界叛逆難内乱)」という政治的な問題が特に強調されていますし、他の遺文でも政治に関する言及が多く見られるなど、日蓮の政治に関する関心の高さが伺えます。また、日蓮武家階級という社会的身分の高い者を中心に弘教を行ったことも、彼の政治への関心の高さを裏付けていると言えます。

 

ただし、日蓮の考える「王仏冥合」は、創価学会がかつて主張していたような、国立戒壇の建立でもなければ、公明党のような仏教徒集団による政治への介入などでもなく、単純に「仏法の道理に基づいた政治が行われるべきである」という、ごく自然なものであったのではないかと思います。

 

立正安国論は諌暁書でありながらも、仏教的な思索に富んでいて非常に面白いのですが、創価学会は政治活動を正当化する目的でしか活用できていないのが残念ですね。

 

それでは、また(  ̄ー ̄)ノ

 

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